Real Estate Agent Awards 準グランプリ インタビュー
株式会社キュピ 代表取締役
齊藤 浩一郎
東京都墨田区に株式会社キュピ創業。不動産仲介を中心に事業拡大をするも、業績悪化により大きな赤字を計上。仲介事業と店舗を売却し全社員と別れる。賃貸管理業務を一人で行うが業務が回らず、思い切って業務の大部分をアウトソーシング。一人でも管理業務 を遂行できる可能性に気づく。現在、賃貸管理物件 330 戸、リノベーションによる空室改善なども行う。
審査員からのコメント
やみくもに会社規模の拡大を追求するのではなく、事業も業務も必要なことだけにフォーカス。そうして生産性を上げてつくり出した時間でフリーランス向けのシェアオフィスや一日バーテンダーのスペース貸しなどクリエイティブな新規事業を展開し、働き方改革の具体的な手法とその効果を知ることができました。とても実践的な内容ですし、フットワーク軽く事業展開されているところが今の時代に合っていますね。
ー 発表内容
賃貸仲介店舗に未来はあるのか?先細りが見えている時代の中で精神的に大きな負荷のかかる売上会議をすることや、月末日に売上のピークを迎え月が変わるとゼロリセットされる毎月の達成目標に意味があるのか?そんな疑問を解決するべく、やらないことリストを作成し、「仲介はしない」と決意。仲介店舗を売却することで固定費を激減、さらに達成目標を持たない経営で、社員のストレスの軽減や、残業の削減を実現しました。そのほかにも、秘書代行サービスの利用により仕事の邪魔をする固定電話の廃止、勤務時間や給与の改定により優秀な人材を集め長く働いてもらう仕組み、社員にはダブルワークを推奨するなど、様々な思い切りの良い施策を実施。ダウンサイジングのピンチをチャンスに変えて、時代の変化に対応した企業を目指した斬新な経営方法とそのノウハウを公開しています。
2017年10月4日の「Real Estate Agent Awards~日本一決定戦~」で 発表する斉藤さん
ー 不動産業界に携わるようになったきっかけを教えてください。
もともとは不動産業界ではなく、Facebook のような多くの方が使うインターネットサービスを創りたいと思っていました。ただ、起業経験は積みたかった。25歳の時、店舗運営を打診されたことをきっかけに大手フランチャイズに加盟して起業しました。
開店初月の売上がなんとたったの7万円。「やはり経営は大変だ」と思いました。それでも、1年目はわずかの赤字で、2年目、3年目には売上がアップ。次にリノベーションや相続など、チャレンジしたいことが増え、これが経営失敗の原因でもあるのですが、会社の成長以上に新規事業とスタッフを増やしてしまいました。そして人件費や経費が増加しました。
ー 経営失敗の原因は他にもあったのですか?
業務範囲を急拡大したことで、人材教育が後手に回り、売上もマンパワーに依存していたことが原因だと思います。 もうひとつは、フランチャイズ店舗を駅前に置くという従来の不動産会社のセオリーが、実は時代遅れだと気付くのに遅れたことです。会社の規模拡大ばかりに目を向けていたら、大きく赤字が出てしまいました。
どうにもならなくなり、同じフランチャイズに加盟する先輩経営者へ相談に行きました。そうしたら、店舗だけでなく、従業員も引き受けてもらえることになったんです。とにかく社員の雇用が守られてすごくありがたかった。
ー 社員の方々とお別れして、齊藤さんはどんな状況になったのですか?
仲介と管理のうち、仲介事業を手放しました。管理事業も M&A をすれば、売却したお金で借金を返済できる状況でしばらく悩みましたが、借金を抱えたまま管理事業は続けることにしました。ただ、これまで4 人で回していた業務量を一人でこなすので、深夜にどれだけ残業しても終わらない。REAAのプレゼンでお話しした業務の効率化は、必要に迫られた結果生まれたものです。
ー 一人でこなす限界が来たとき、まず何をしましたか?
業務をすべて書き出して、全部自分でやらない(アウトソーシングする)というちょっと過激な戦略を取りました。手元から離してみて、トラブルが起こりやすい業務、自分がした方がスムーズな業務を戻し、今の形ができました。その結果、現在は330戸の物件管理を私とアルバイトスタッフ2名のみで行っています。
移転先のオフィスは地元の仲間たちとセルフリノベーション
ー 具体的な効率化について教えてください。
5つあります。
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インターネット広告を止めました。ポータルサイトは競合他社が多すぎるし、メンテンナンスの手間と費用が成果に見合わないと感じました。
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秘書代行サービスを利用しました。電話は秘書代行会社へ転送され、専門のオペレーターが応対し、用件のみあとで報告してもらえます。そしてオフィスの固定電話も不要になりました。
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物件獲得業務のクラウドソーシングの活用です。指定地域を、クラウドワーカーが歩き、空き物件を探してくれます。また、建物の状況などを見てレポートを作成し送信してもらえます。
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賃貸借契約の電子化(ペーパーレス化)です。スマートフォンで賃貸借契約を完結させる仕組みで紙が不要になり、印刷や製本、発送業務、書類の保管といった業務からも解放されます。
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正社員は採らないというルールです。正社員は、アルバイトと比較して時間あたりの生産性にルーズになりがちなこと、昇給・昇格制度の仕組みが必要になること、ムダな飲み会・社員旅行が定例化することがあげられます。
ー ストレスの少ない職場づくりも心がけているそうですね。
当社には売上目標がありません。売上はマンパワーで作るもの、という伝統的な企業風土が未だに受け入れられなくて。私は仕組みづくりでご飯を食べていきたいと思っています。また、超時短勤務(一日 4 時間、週 3 日)可能で、ダブルワークも推奨しています。毎日は来られないけど優秀なスタッフや、他業界の優れたノウハウを持つスタッフと働くことができるのも魅力です。
ー 不動産業の面白さってどんなところにありますか?
幅が広く奥が深くていつまで経っても極められないところだと思います。必要な知識が多く法律や税金も学ばなければなりません。まだまだ挑戦できる余地のある分野だと思います。
そして、だんだんと一般的な不動産業ではなく、人づくり とまちづくりにシフトしている気がします。 今回のイベントでグランプリを獲得した「omusubi不動産」の殿塚くんとは友達なんですが、彼は松戸の八柱という街を自らの取り組みによって盛り上げることに成功しています。仕事に対する考え方について尊敬する点が多いので、その手法を学んで墨田を盛り上げたいです。
借り上げた居抜きの飲食店を一日単位でレンタルするシェアバー「BUZZLE」
ー この先やってみたいことを教えてください。
墨田がもっと面白くなれば良いなと考えるようになりました。人が集まる場や、面白いと思ってもらえる場をつくれるのがまさに不動産業という仕事なのだと。ゼロからイチが生まれる場をつくる仕事をしたいですね。
最近のニュースとしては、居抜きの飲食店を自ら借り上げて、一日単位で貸し出すシェアバー「BUZZLE」をスタートさせました。「BUZZLE」は、将来飲食店を持ちたい人の腕試しの場にもなっていて、多種多様なマスターとお客様が集まっています。きっと自分が設計した部屋やプロデュースした店舗に人が集まり笑っているのをこっそり見ているのが私にとっての幸せなんですね。